トイレを嫌がる自閉症児の家族必見!保育士直伝トイトレの進め方の一例
「自閉症の子どもの母です。トイレを嫌がりトイレトレーニングが進みません…。将来の自立を考えると不安で気が重いです。」
あなたは自閉症のお子様を抱え、お子様の「今」と向きあいながら、将来の自立や、学校進学を思い、「トイレトレーニングが進まないこと」に悩んでおられるのではありませんか?
今回は保育士である私が、トイトレについてお子様の状況に合わせた支援の一例についてお伝えします。
なお、本記事でトイレトレーニングとは「お子様が腸と膀胱を制御し、排泄のためにトイレを使用するように教えるプロセス」の事を言います。お子様はトイレに行き始めたときにトイレトレーニングを受けていると見なされ、排尿や排便に必要な衣服を調整しながらトイレトレーニングを進めていきます。
目次
なぜ自閉症の子どもがトイレトレーニングを嫌がるのか?
そもそもトイレトレーニングをなぜ自閉症の子どもは嫌がり、なかなか進まないことがあるのでしょうか?
今回は自閉症の子が持っている特性ゆえ、トイレトレーニングが怖がり、不安に思う要因についてまとめていきます。
①感覚過敏があるため。
人それぞれ「見る」、「聴く」による感じ方には個人差があります。しかし、自閉症の子の特性には目や耳等の感覚器官を通して受けた感覚を過敏に感じる「感覚過敏」、逆に感覚が「感覚鈍麻(低反応)」と呼ばれ感覚の個人差が非常に大きいと言われています。
例えば、自閉症のこの感覚過敏の例として、自閉症の当事者で翻訳家として活躍するニキ・リンコによれば「雨やシャワーが痛い」「プールに入る前の消毒が怖い」等の困り感があるとおっしゃっていたそうです。
トイレトレーニングをする自閉症の子どもも同様に感覚の感じ方によって不安感や不快感で、トイレトレーニングが進まない可能性があります。
トイレトレーニングが進まない一例
【感覚の過敏性】
- 触覚の過敏性により、トイレやおまるに座る際の皮膚感覚が嫌である。
- 視覚の過敏性により、トイレの照明の明るさに不快感がある。
- 聴覚の過敏性により、トイレの音(水の流れる音、トイレの近くの環境音)が怖い。
- 嗅覚の過敏性により、トイレのにおいや消臭剤の匂いに不快感がある。
感覚の過敏性に対しての対応方法として
- 触覚過敏がある場合、お子様が好きなふわふわした素材をトイレの座面にシールを貼る、トイレを暖房器具等により温める等も効果的です。
- 視覚過敏がある場合は、電気の明るさや色を調節するとよいかもしれません。
- 聴覚過敏のある場合は、好きな音楽をトイレで流し、お子様が嫌がらない場合イヤーマフ等をすることも良いと思います。
- 嗅覚過敏に対しては、トイレに匂いがしないようにした状態で、お子様の安心できる匂いがするおもちゃや人形等を持って行き、トイレの匂いが気にならないようにするのも効果的です。
②行動のパターン化をしているため、行動の変化をすることに不安を覚えるため。
2つ目の理由として、自閉症の子が日々生きていく中で、自分の行動をパターン化し、これをしたら次にこれをするとある種行動をルーティン化することが好きなケースが多い為です。ルーティン化することが好きなため、いつもと違う事に変わるのが不安な可能性があります。
具体的に、トイレトレーニング開始時の自閉症の子どもの立場に立って考えると以下の例が考えられます。
- 「今までは、おむつに排せつする時は、好きな遊びを中断しないで出来ていたのに、トイレトレーニングがはじまったら、一旦好きな遊びを中断して、トイレにいって座らないといけないから今までと違う」
- 「今までは、おむつに排せつする時は、好きな体制で排せつが出来ていたが、トイレトレーニングがはじまると、トイレもしくはおまるで常に便座の上に座って排せつすることが必要で、今までと違う」
- 「今までは、おむつに排せつする時は、いつもきまったおむつをしていたのに、トイレトレーニングを通して、紙おむつではなく布おむつをはき、いつもと違う素材の布がおしりにつき今までと違うものをはく動作が加わる。」
このようにいつもと違う場面によりお子様がより一層不安になる可能性があります。
この場合、お子様にとってルーティンやパターンが崩れることの不安が考えられるため、1度にトイレトレーニングを進めるのではなく、トイレトレーニングの中でもその子が変化の受け入れられそうなところから変化し、変化を受け入れ順応したところを、強化(その子の好きなおもちゃで遊び、頑張ったらもっと楽しいことが待っているとお子様に知ってもらう)する方法もおススメです。
③言葉で状況や気持ちを伝える方法が分からない。
自閉症の子どもの中には、言葉で状況や気持ちを伝えることが苦手な子もいます。また、発語による報告や少ないお子様は、排尿感覚等があってもトイレに行くことを周囲者に伝えられない可能性もあります。
トイレトレーニング中は支援者や保護者と一緒に行うことが多いため、自分の気持ちを伝えることが出来ないことに不安を覚える可能性があります。
言葉でなくても特定のサインを使った気持ちの伝え方などを練習することで、トイレに行く気持ちを伝え、トイレトレーニングが進んだ自閉症の子もいます。
④気持ちの切り替えに時間がかかるため。
トイレトレーニングには、「好きな遊びを中断して、切り替えて、トイレ(もしくはおまる)の場所まで移動しトイレをする」という気持ちの切り替えが必要になってきます。
気持ちの切り替えや、やるべきことを選び取り、遂行するには、脳の中でも「前頭前野」の発達があることで、よりやりやすいと言われています。
脳の前頭前野では、脳の司令塔とも呼ばれ、行動をプランニングし、1つの事に注意を向ける注意収集などの機能をつかさどります。
例えばトイレトレーニング場面における、気持ちの切り替えをする場合、自分がしている遊びを中断して(反応抑制)、トイレにどう向かうか(どの道を通って行くのか、どの先生とどの手続きで行くのか)考えた上で、他に気になるもの注意が散るものに目を向けず集中して向かうことが必要となります。
気持ちを切り替えて、やるべき行動ができた成功体験が増えると、徐々に気持ちの切り替えが出来るようになるケースもあります。
トイレトレーニングに対して不安を持っているお子様がいるご家庭や、トイレトレーニングをまだ導入していないご家庭では、まず気持ちの切り替えの練習として、
①大人の声掛けで今やっている遊びを中断できるのか?
②お子様自身が例えばスーパーやお店で、買う必要がないが、お子様が「買って―」と行ったものを我慢することができるか?
等の行動を見たうえで、徐々にお子様の気持ちを切り替えられた時を強化し、気持ちの切り替えのトレーニングをすると良いかもしれません。
トイレトレーニングの研究から、私たちのトイレトレーニングの支援への生かし方①
続いてトイレトレーニングの支援についてまとめられた論文を紹介しながらトイレトレーニングの生かし方をお伝えします。
今回紹介させていただく記事の1本目は「自閉スペクトラム児の排尿行動の学習―自宅以外での排尿習得をめぐって―」と呼ばれる論文です。
参考:自閉スペクトラム児の排尿行動の学習―自宅以外での排尿習得をめぐって―
この事例では、小学1年生の知的障害の子どもに対して、支援者が子どもの排せつ行動の前後行動を分析し、子どもの立ち振る舞いによって、子どもをトイレに誘導しトイレでの排せつ行動を促すことでトイレトレーニングを進めていきました。加えて、トイレに誘導する際に、子ども自身がサインを出せるように、支援員が毎回決まった伝え方や誘導を意識したうえで支援を行いました。
加えて、どのタイミングで排せつ行動があるのか、時間ごとに表にまとめ、ある程度感覚を空けたうえでトイレに誘導するような支援をし、お茶などに水分を適宜取ることで排尿行動がトイレで出来るように支援をしました。
結果、自宅のトイレでのみ排せつ行動を行っていた子どもが、デイケアでも排せつ行動が出来るようになりました。
- お子様の排尿感覚を記録したうえで、ある程度感覚を空けたうえで、トイレに促す。
- お子様がトイレでの排尿行動がうまくいくように、水分を適宜とる。
- トイレへ誘導するやり方は1つに統一し子どもが分かりやすいようにする。
- 排せつ行動の前の行動を分析し、どのような恰好をした際にトイレに行きたいのかあらかじめ支援員間で共有しておく。
このような視点もトイレトレーニングでは大切だと実感しました。
トイレトレーニングの研究から、私たちのトイレトレーニングの支援への生かし方②
続いて「自閉スペクトラム児の排尿行動の学習 : 手洗い行動の習得」について考えていきます。
トイレトレーニングでは、実際にトイレで排尿行動をするだけでなく、排尿前後に付随する動作、例えば手洗い動作や服の着脱等が必要となっています。
【「排尿行動」の課題分析】
立ち上がる →トイレに移動する →トイレに入り、パンツを下す → 排尿する →水を流す → パンツをあげる →トイレから出る → 洗面所で手を洗う →手を拭く → 席に戻る
いかがですか?行動を一連の形で分解するとこのようになり、トイレトレーニングでは様々な行動の連続となっています。
その為それぞれのトイレトレーニングの行動の要素を分解したうえで、どの部分でお子さまが躓いているのか考えるのが良いと思います。手洗い行動を要素に分けて分解すると、以下が考えられます。
【「手洗い」の課題分析】
洗面所に移動する →蛇口を開ける →手を濡らす→ 石鹸をつける →手を洗う→蛇口を閉める →手を拭く →席に戻るのように一連の動作もそれぞれ分解して考えることができます。
1つ1つの動作のどこで困っていそうなのか?そしてその行動のどこの部分をどのように支援する(視覚的に提示する、見本をみせる、手差しをしながら、お子様の体に触れながら、支援をしていく)のが良いか考えていきながら、定期的に支援している様子が論文から紹介されていました。
参考:山本 順大・小坂井 翠・小林 重雄(2019)自閉スペクトラム児の排尿行動の学習 : 手洗い行動の習得 自閉症スペクトラム研究 16 (2), 39-43
まとめ|お子様の「できた!」を増やすため、1つ1つの行動を分解して出来た!を増やす
ここまでお読み頂きありがとうございました。今回は論文を基にトイレトレーニングをご紹介させていただきました。
お子様の行動を1つ1つ分解しながら、お子様の分かりやすい形でトイトレを教えていくことも大切です。
お子様の状況に合わせて1つ1つお子様に伝えていきましょう。
参考文献
Morgan, Richard. Zoo Poo: A First Toilet Training Book. New York: Barron’s Educational Resources, 2004.
Warner, Penny, et al. Toilet Training without Tears or Trauma. Minnetonka, MN: Meadowbrook Press, 2003.
ニキ・リンコ(2004).自閉っ子、こういう風にできてます!花風社.
青柳 閣郎・保坂 裕美・相原 正男(2014).前頭葉の発達とその障害 認知神経科学 Vol. 16 No. 1
松田惠子・和田由美子・一門惠子(2019).自閉スペクトラム症児者における感覚過敏・鈍麻の実態(1)敏・鈍麻(1)心理・教育・福祉研究 第1
山本 順大・小坂井 翠・小林 重雄(2019)自閉スペクトラム児の排尿行動の学習 : 手洗い行動の習得 自閉症スペクトラム研究 16 (2), 39-43
小林重雄・小坂井翠・山本順大(2017)自閉スペクトラム児の排尿行動の学習─自宅以外での排尿習得をめぐって 自閉症スペクトラム研究 第16巻第1号
エコルド川口教室です
埼玉県川口市で児童発達支援・放課後等デイサービス多機能型事業所を運営しております。
未就学および小学生低学年の課題のあるお子さまに「療育×テクノロジー」をテーマに療育をご提供しています。
エコルドグループの特色である未就学のお子さまを平日17:30までお預かりしていることで保護者さまから喜ばれております。
お問い合わせ、ご見学申し込み、ご相談だけでもお気軽にどうぞ
次の記事へ